本研究室では,ソフトウェア工学分野において,設計や実装に関わる基礎技術を研究対象とし,ソフトウェア構築を より簡単かつ迅速に行うための理論,原理,手法,技術の探求を行っています.

現代社会において,我々の生活は,ソフトウェアなしでは成り立たないといっても過言ではありません.今では, あらゆる分野において,ソフトウェアが企業の成否を分ける重要な役割を果たすようになってきています.さらには, 近年注目されている共有型経済(シェアリングエコノミー)において,乗り物・住居・服など個人所有の資産の貸し 借りを仲介しているのもソフトウェアです.

もはや,ソフトウェアは社会基盤のさまざまな局面を支えているだけでなく, 社会に新しい産業の形態を生み出す原動力にもなっています. 社会は,マーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)が 2011年の8月にWSJ (The Wall Street Journal)に寄稿したエッセイ「Why Software Is Eating The World (なぜソフトウェアが世界を飲み込むのか)」で予測した通りになっています.

また,人工知能や機械学習が組み込まれたシステムの振る舞いを完全に予測することは困難で,そのようなソフトウェアの 信頼性をどのように考えればよいのかというきわめて難しい課題に取り組む必要もあります. さらには,オープンソースソフトウェアプロジェクトの台頭やアジャイル開発の普及など,ソフトウェア開発の人的側面に も大きな関心が集まっています.

このような状況において,安心・安全な社会を支えるソフトウェアをどのように作ればよいのかという課題に挑戦して いるのが、ソフトウェア工学(ソフトウェアエンジニアリング)という分野です.

残念ながら,ソフトウェア工学の研究成果を待ち,最新技術を学習してそれを活用していくだけの受け身の姿勢で, 信頼性や安全性の高いソフトウェアが簡単に作れるわけではありません.開発者自らが新しいソフトウェア開発技術を 生み出し,そのような技術を普及させていく,能動的な姿勢が強く求められています.

このような観点から,大学の研究室でソフトウェア開発の理論的側面やソフトウェア開発の本質に接することは貴重な機会だと 思います.本研究室での研究活動を通して,ソフトウェアが社会に与える影響の大きさやソフトウェアを開発するという知的 作業を真に支援することの難しさに向き合い,ソフトウェアの持つ可能性と本質的課題について知った上で,社会で活躍する 研究者や実践者になってほしいと思います.

企業に就職すれば,より実践的なアプリ—ケーション開発に携わることはいくらでもできます.その一方で,10年,20年, 30年後のソフトウェア開発に役立つかもしれないソフトウェアおよびその開発の理論的側面やソフトウェア開発における 原則を学習する機会は著しく少ないのが現状です.

企業に就職すれば簡単にできることではなく,大学の研究室でこそできる研究に目を向けてみませんか.